シェア0からの参入を狙う
2018年、浜松営業所長として自動車メーカーの営業担当をしていたM。彼には、自動車用エンジン軸受ではすでに取引があるこのお客様に、スラストワッシャーを拡販したいという想いがあった。スラストワッシャーとは、エンジン内のクランクシャフトに2~4個取り付けられる部品。潤滑油がうまく行き渡らないと焼き付いてしまうこの部品について、当時の大同メタルでは油膜を巧みに保持させて焼き付きを防ぐ独自形状が開発されていた。Mはお客様の設計担当者に、当社独自の形状と一般的な形状の、焼き付くまでの時間を比較したデータを提示しPRしていた。しかし、独自形状のスラストワッシャーは高性能な分、高価。また、自動車業界では安全性の問題から、一度採用した製品を長く使い続ける文化があるため、その時は採用に至らなかったが、営業所長Mは訪問のたびに機会を見ては話題に出した。この努力が後になって大きな意味を持つこととなる。

技術と連携で乗り越えた試練
「試作品を持ってきてくれないか」。突如お客様から連絡が入ったのは、年をまたいだ春先のことだ。お客様が実施した車両の生産開始前のテストで、スラストワッシャーが焼き付くトラブルが発生。頼みの綱として、独自形状のスラストワッシャーの存在を思い出してくれたのだ。営業所長Mは即座にお客様のもとへ駆けつけ、製品設計担当のIや工場部門を巻き込み、早急に試作品を用意した。お客様が試験をしたところ結果は良好。それも「いつまでも焼き付かなかった」と驚かれるほどの性能を発揮し、晴れて採用が決まった。月産1万個の生産に対応するためには急いで社内体制を整える必要があったが、Mが各部署に生産計画をいち早く展開して采配を振るい、量産立ち上げは問題なくスムーズに運んだ。ただし、それはこの時に限らず、日頃から工場へ顔を出してはコミュニケーションを取り、工場からの頼みごとも快く聞いて築いた、持ちつ持たれつの関係があったからこそである。

生産拡大の裏側
「大同メタルのスラストワッシャーは焼き付きに強い」。そのような好評を受けて、お客様最大の市場で生産する車両への採用も決まった。その数は月産10万個。担当を引き継いだ当時入社3年目で、新人時代からMの下で育った営業担当Kは、「採用してもらえるなんて光栄だ」と言うが、喜んでばかりもいられない。生産数が大幅に増加するため、従来品同様の加工方法では追いつかず、一気に成形できる新しい加工方法に切り替える必要があったのだ。だが、先にも述べたように自動車業界は安全性第一で、製品変更が少ない。加工法の変化によって性能にバラつきがあってはいけない。性能に差がないことの証明が急務であった。そのため、急いでテストに着手したIは、「そのような時に限って意図した通り進まず苦労しました」と言うが、そのような状況下でもデータを揃え、性能への影響がないことを証明した。

努力がもたらした成功
Kは、生産立ち上げに向けて動いていた。可能な限り先行生産をするよう工場に頼み込み、膨大な量の材料をスムーズに調達できるよう生産計画をいち早く入手して社内に展開。各部署の協力を仰いで進め、引き継ぎから2年半で、新しい加工方法への移行と月産10万個を見事に実現した。今回の成功が実り、さらに複数車両に展開され、現在のスラストワッシャーは月産20万個まで増加。シェアは50%にまで伸びた。しかしMは、「だからといって油断せず、お客様とコミュニケーションを続けることが大切」と言う。

Kは「困っているお客様に提案できるものがある大同メタルの技術力は、営業にとって大きな力になります」と胸を張る。その技術を、設計や製造をはじめ関係各所と連携し、世に送り出していけるのが、大同メタルの営業である。
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